女子フィギュア雑感 その4

浅田真央選手
真央ちゃんおつかれさま。銀メダルおめでとう! 
メダル授与式の前後には、悔しくて泣いていた真央ちゃんですが、悔しいということが、まずすごいと思いました…。だってオリンピックの銀メダルだよ? 日本人で今回獲ったの、スピードスケートの長島選手と真央ちゃんだけですよ。それで悔しいってすごいな。
なんかね、ソルトレイクのときのプルシェンコを思い出してしまいました。私はなんとなく、むかしから真央ちゃんとプルは似てるなーと思ってたんだけど、性格とか顔とかでなく(笑)、演技と、演技のたどる軌跡が似てるんですよね。だからきっと、つぎは金だよ。うん。
と、いきなり断言してしまいますが。
真央ちゃんは、やはり私も日本人なので、すごく応援していたし、勝って欲しかった。いまのヨナちゃんに勝てる人が、もしいるとしたら、真央ちゃんだけ。そう思ってもいました。でも、勝つのがすごく難しいことも、わかってはいました。プログラム構成とか、ちょっとしたレベルのとり方とか…勝負への出方が、ちょっとずつ、真央ちゃんのほうが不利だった。基盤の振付力で、すでに差がついていた。
振付力、スタッフ力について、ふたりの差、というのは、おととしあたりからじつは顕著になっていたことでした。真央ちゃんが優勝したイエテボリワールドの年、ヨナちゃんはチームコーチ体制になりました。メインコーチはオーサーだけど、足元のステップとか、体の動きとか、それぞれに元オリンピックメダリストクラスのコーチがついたんですよね。トレイシー・ウィルソンとか、アストリッド・シュラブとか。チームコーチ体制で、ヨナちゃんは急激に洗練されていきました。
たいして、真央ちゃんは、ずっとタラソワ体制で…。もちろん、タラソワは悪い先生ではないんですけど、荒川さんや高橋大輔選手が師事していたときよりも、コーチ力は下がっているのはたしかだったんですよ。荒川さんたちが習っていたときには、タラソワさんの手元には、エフゲニー・プラトフとか、マイヤ・ウソワといった、元オリンピックメダリストのアイスダンサーからコーチに転身した人たちがいて、アシスタントとしてタラソワを助けていました。モロゾフもいたかな。荒川さんのときには、まだちらっといたのかも…。いまは彼らはいないみたい。ウソワはどこに行ったんだろう。プラトフは、アメリカにわたって、独立してコーチになっていますが。
コーチ体制で負けてるよなーというのは、3年くらいずっと、私みたいな素人ファンでも感じてきたことで、そして、タラソワ振付にも問題があった。得点が稼ぎにくい構成なんですよ。難しいんだけどね。スパイラルとか、真央ちゃんは技術的に問題が無いのに、いつもレベルをこぼすんだけど、そんなのは振付が悪いからだ! I字保持なしのバックアウトエッジスパイラルとか、入り方とかポーズとかやたら難しいだけで実りが少ないのをなぜ毎年入れるのか…。
勝負の年の今年には、ローリー・ニコルの振付に戻して欲しかったのですが、今年もタラソワ振付で。なんかなーと正直思ってました。シーズン序盤から。
でも「鐘」は、とてもいいプログラムでしたよね。
なんでタラソワになってから、得点の獲りにくいだけの難しいプログラムを……と、思ってきたのですが、フリー演技のときの真央ちゃんの鬼気迫る表情、あれを見て、ああ、いいものを見たなと思いました。得点は獲りにくいプログラムだったかもしれないけど「鐘」は真央ちゃんから、表現を引きずり出してくれた。それは得がたいことだなと、思ったんです。
なんかね、獣のような顔で滑ってましたね。鬼のような。
あんな顔をしている真央ちゃんを見たことがない。ふわふわとした、やさしい、かわいい、真央ちゃんの中に、あんなに厳しい表情があったとは知りませんでした。勝負にこだわる、厳しく激しい、鬼のような衝動が。
すばらしい「鐘」だったと思います。
あの演技が、表現ができたことを、真央ちゃんにも、誇りに思って欲しいと思う。たんに、アクセルが入ったとかそういうことじゃなくて。
真央ちゃんは自分の演技について、わりと、アスリーティックな感覚で話しているな、と思うことが多くて、だからプルシェンコに似てると思うんだ! と、いま気づきました(笑)。ミスしないとか、エレメンツをひとつひとつしっかり、とか、アクセルを跳ぶ、とか、技術的なことを言うんですよね。表現ではなくて。
それもひとつの選手道だと思う。
難易度の高いエレメンツ、それが、選手としての真央ちゃんのアイデンティティであるなら、つらぬいて欲しい。まっすぐに。どんなことでも、追求していけば、たどり着ける境地があります。プルシェンコトリノ五輪フリー「トスカ」、「星は光りぬ」のくだりでは、震えが来ました。
タラソワはロシアスケ連のアドバイザーなので、今後ずっと指導を仰ぐことは難しいと思う。コーチは変わると思いますが、武士のようにストイックに戦いに対峙していく姿を、また見せて欲しいと思います。真央ちゃん。彼女こそ競技スケーターです。